現役の精神科医が患者の前で言えない本音「精神疾患になりやすいタイプ」は?

現役の精神科医が患者の前で言えない本音「精神疾患になりやすいタイプ」は?

 

 

 

同僚がうつ病になり休職してしまった。明るくてパワーのある男性だったのに、本当に驚いた。こんなに身近にいる人間が精神疾患にかかってしまったことで、自分もいつかそうなってしまうのでは…と不安になった。

 

【写真】精神科医の本音を全部読む

 

「精神科医の本音」(SBクリエイティブ発刊、定価990円)を発刊した、早稲田メンタルクリニック院長益田祐介先生に、どんな症状などが出た時に病院に行くべきなのか、メンタルクリニックの実情などについて教えてもらうことにした。益田先生、よろしくお願いします

 

■不幸の掛け算によって起きる精神疾患

 

――先生、自分もいつか精神的な病を患ってしまうこともあるのではないかと心配しています。どんな人が心の病気になりやすいのでしょう?

 

益田先生 「どんな人が精神疾患になるのか」という質問はよく受けますが、私がよく言うのは「精神疾患は不幸の掛け算によって起きる」です。

 

同僚の方は明るくてモテる人だったそうですが、もともとの性格や気質、能力の問題だけでは、すぐに疾患にはつながらないのです。

 

弱いところがあっても、働ける職場はいろいろとありますし、家族と仲良く生活することもできます。けれども、そこにブラック企業の問題や虐待の問題が重なることなどで、うまくいかなくなっていきます。

 

つまり、遺伝子と社会的なストレスの掛け合わせによって、多種多様な精神疾患が生み出されるのです。

 

■不運が重なる状態にも注意

 

益田先生 この「不幸が重なる」という感覚は、一般的な生活をしている人には意外とイメージしにくいのです。普通に仕事をしていれば、「そんなに不幸が重なることなんてあるの?」と思われるかもしれません。

 

たとえるなら、サイコロで6の目が5回連続で出るようなものです。5回連続なんて想像しにくい事態かもしれませんが、それでも計算上はゼロではなく、「7776分の1」の確率で起きます。

 

多くの人間がいれば、「不幸が5つ重なる」という起こりにくい現実に陥っている人もいるのです。そういう1万人に一人のような人が、精神科を訪ねてこられます。

 

ですから、精神疾患には「誰にでもなる可能性がある」とも、「誰でもなるものではない」とも、どちらとも言えることになりますね。

 

たとえ抑うつ症状が出やすい人でも、刺激の少ない環境で、生活が安定していれば困ることはありませんし、うつ病を発症しないですむでしょう。ところが、そうした人にブラック企業に入社するという「不運」が重なると、会社からの頼みを断れず、会社から搾取されてしまって、心も体もボロボロになってしまうのです。

 

■本音その1 「べき思考」の人は精神疾患になりやすい

 

――「誰にでもなる可能性がある」けど「誰でもなるものではない」とでも言えるのですね……とすると、あらためて精神疾患になりやすい人というのは?

 

益田先生 精神科に通ってこられる方の中で多いのは「自分の見ている世界が常識である」と頑なに思いこんでいて、その考えから抜け出せない人です。

 

たとえば恋人について聞いているうちに、「交際相手に殴られて、財布から10万円を抜き取られてしまった」と言いながら、本人がそれを全く異常だと感じていないことがあります。それは「DVですよ」と医師から言われて、初めて普通ではないことに気づいたりするのです。

 

また、本人は「しつけに厳しい親だった」という程度の認識であっても、よくよく聞けば日常的に殴られていて、明らかな虐待だったというケースもあります。自分が受けた虐待に気づいていないのです。

 

若い患者さんの中には社会経験の不足が原因で、明らかに上司からのパワハラなのに気づけなかったり、搾取まがいの行為をされているのに、無警戒だったりすることもあります。

 

「真面目な人ほどうつになりやすい」と言われますが、これは視点の切り替えが苦手ということです。愚直すぎて疑うことができない、なんとかしなきゃと思い込みすぎてしまう……こうした思考傾向を「べき思考」と呼んでいます。

 

べき思考の人は完璧主義で自分の失敗や負けを許せない気持ちが強いため、「完璧でない自分」を認められるように、治療を進めていく必要があります。

 

■本音その2 研究で明らかになっている、精神疾患になりやすい4つのタイプがある

 

もう少し具体的に「こういう人がかかりやすい」というお話をしましょう。研究で明らかになっているのは

 

1)家族に精神疾患患者がいる人

2)性別では男性より女性が多い

3)家庭環境に問題がある場合。これは単に虐待だけでなく、貧困家庭やヤングケアラーなど、さまざまな家庭内の問題を含みます

4)知的能力の低い人もなりやすい傾向があります。これは同じ仕事をしていても知的能力が低いと同僚から後れをとったり、上司から要領が悪いと指摘され、自尊心が低下する機会が増えるからです。その結果として精神疾患になりやすいと言われています

 

4つあげましたが、これに当てはまる人が、必ず精神疾患になるというわけではありません。研究の結果、こうした人がなりやすい傾向にある、というだけです。

 

■本音その3 精神科に行きにくい人のための心療内科やメンタルヘルス科

 

――では、実際にメンタル的に不安になったら、どうすればよいのでしょうか?病院に行くにしても精神科や心療科など、いろいろあってよくわかりません。

 

益田先生 まず最初に、なんだかおかしいなと感じたら、気軽に病院の門をたたいてください。初めて精神科を受診しようと考えている方は、受診するタイミングや休職する基準などについて良く分からないと思います。前提として一番大事にして欲しいのは、自分の気持ちです。

 

辛い思いを抱えている患者さんに、医師が否定的なことを言ったり、「もっと頑張りなさい」と叱ることは絶対にありません。患者さんの気持ちを尊重してくれるはずです。だから、受診したいと思ったら迷わず病院に行って大丈夫ですよ。

 

精神科と心療内科ですが、心療内科は文字通り内科のくくりの中にあります。過敏性腸炎などストレスが原因で体に症状が現れる病気を扱う科として、内科から独立しているので、メンタル不調があっても体の症状が強い場合は心療内科を勧められるでしょう。

 

精神科という言葉には隔離病棟的な昔のイメージがあります。根強い偏見もあり、多くの患者さんから「精神科には行きづらい」という声が多くあります。そのため、精神科に心療内科を加えている病院が多いのです。「精神科・心療内科」と併記したり、心療内科の代わりにメンタルヘルス科と表記されるなど、さまざまです。

 

もう少し具体的にどんな病院へ行けば良いかですが、私のお勧めは「自宅から近いクリニック」です。通院は年単位と、長期にわたる場合が多いので、通いやすくないと大変だからです。

 

ただし、以下3つのケースは例外です。1)摂食障害など特殊な症状が顕著な場合は、その専門の病院の方が良いでしょう。2)糖尿病や高血圧など他の病気で通院している総合病院があれば、その病院の精神科の方が、一度に診てもらえるのでお勧めです。3)入院の可能性が高い場合は、入院設備の整った病院を選んで欲しいと思います。

 

――益田先生、ありがとうございました!

 

患者が知らない精神科医療の本音を丁寧に解説してくれた「精神科医の本音」は、薬物療法や精神療法の現実についてもわかりやすく解説されている。心が苦しくなった時はぜひ手に取って読んでみて欲しい。

 

 

益田裕介(ますだ ゆうすけ) 先生

早稲田メンタルクリニック院長

精神保健指定医、精神科専門医・指導医

岡山県出身、防衛医大卒。

2019年12月14日よりユーチューブチャンネル「精神科医が心の病気を解説するCh」を配信開始。日々、精神疾患や治療法、カウンセリング技法などの解説を行なっている。チャンネル登録者数は32万人を超え、1日の再生回数は平均20万回以上(2022年7月時点)。

また、患者さん同士がオンライン上で会話をしたり、相談ができるオンライン自助会を2022年3月24日より主催・運営するほか、精神科領域のユーチューバーを集めた勉強会なども運営している。

 

文/柿川鮎子

 

編集/inox.