骨格筋量が多い男性は要介護になりにくい 故障に注意しながら運動習慣を
【今から始めよう!70代まで働く健康術】
いつまでも元気に働くには、介護状態や認知症をなるべく退け、健康寿命を延ばすことが大切になる。そのためにも足腰を鍛えてスタスタと歩くことができるような体を維持したい。ちょっと肥満気味という人は、健康寿命の〝壁〟になるのだろうか。
「私たちの研究では、骨格筋量や脂肪量よりも、身体機能(筋力・歩行能力)が、要介護化リスクを下げるために強く影響していました。たとえ太っていたとしても、体格に見合った筋力や歩行能力を保持していれば、要介護状態になりにくいのです」
こう説明するのは、東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チームの清野諭主任研究員。スポーツ医学博士で、高齢者のフレイル(心身の虚弱)の早期発見や予防プログラムなどの研究を数多く手掛けている。
「男性の場合、骨格筋量が多いことも、余命に独立して影響していました。筋力や歩行能力が十分にあり、筋肉量も維持できれば、要介護になりにくく長生きにつながると考えられます」
清野氏らの研究グループが今年3月に公開した論文では、高齢者健診受診者1765人を平均約6年間追跡調査し、骨格筋量、脂肪量、握力、通常歩行を評価した。男性の場合は骨格筋量が多く、握力や通常歩行の数値が高いほど、要介護化リスクが下がり、余命が長い結果だった。運動習慣は欠かせないのだ。
コロナ自粛や多忙で運動習慣が持てなかった人は、意識して体を動かすことが大切だ。どんな運動をすればよいのか。
「散歩やウオーキングの時間を1日10分間増やすだけでも、運動習慣を全く持っていない人より要介護化リスクを下げ、余命の延伸につながります。ただ、運動量を過度に増やしすぎて、膝痛などの故障につながらないよう注意することも必要です」
2021年「第23回日本運動疫学会学術総会」で清野氏が最優秀演題賞を受賞した研究では、厚生労働省が示す基準(普通歩行換算で1日平均1・1時間相当)よりも、さらに高い身体活動量(同1日平均2・5~3時間相当)で、総死亡リスク(原因を問わない死亡リスク)が最も低値を示した。ところが、3時間相当を超えると横ばいに。1日中ハードに動いたからといって、寿命が延伸するとは限らないことが明らかになった。
「どんなにハードに動いても、高齢になってから筋肉量を増やすのは容易なことではありません。若い頃から筋肉量をほどほどに増やし、維持しておくことが重要です」
東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チームは、高齢者のフレイル予防のため応援コンテンツをホームページ上に公開している(「ヘルシーエイジングと地域保健研究「フレイル予防応援コンテンツ」で検索)。「運動編」には、「かかとあげ」や「スクワット」などさまざまな運動の方法やアプリを提示しているので、参考に。(安達純子)
■「かかとあげ」をやってみよう!
① つまさきを床につけたまま、「1、2、3、4」と数えながら、かかとをできるだけ上にあげる
② 「5、6、7、8」で元の位置に戻す ③ ①と②を10~20回繰り返す
■「スクワット」をやってみよう!
① 足を肩幅に開き、「1、2、3、4」でお尻を後ろに引きながら腰を下ろす。このとき両膝がつま先よりも前に出ないように注意する
② 「5、6、7、8」でお尻をあげて元の姿勢に戻す
③ ①と②を10~20回繰り返す(以上、無理のない範囲で行うこと)
※「フレイル予防応援コンテンツ」から