いきなり訪れる「心不全」…専門医が教える対応マニュアル
急性心不全はいきなり訪れます。突然、激しい胸の痛みや息苦しさに襲われたら、誰もがパニックを起こしてしまうのは仕方ありません。しかし初動が遅れればその分、予後に影響を与えてしまいます。いざというときにスムーズに対応できるよう、あらかじめ対応マニュアルを頭に入れておくことが大切です。“心疾患・心臓リハビリ”の専門医・大堀克己医師が解説します。
急性心不全の発作リスクが高いのは「就寝中」
急性心不全の発作が起こりやすいのは夜、就寝中です。横たわっていると心臓に戻る血液が一気に増え、心臓の負担が多くなるからです。その場合、起き上がって前屈みに座る(起座位)と重力の影響を受けて下肢や腹部の静脈に血液が溜まり、心臓に戻ってくる血液が減少するため、呼吸が楽になります。上半身を起こして、しばらく前傾姿勢を保っていると、そのうち息苦しさが治まります。
しかし、症状が治ったからといって再び仰向けになって眠ると、また息苦しさに襲われてしまいます。そのため、ベッドの頭部を少し高くしたり、背もたれのようなものに寄り掛かったりして起座位を保ち、下方に滑らないようひざを軽く曲げた姿勢で就寝するとよいです。
また、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とばかりに、「もう発作は治ったから大丈夫」と、医師の診断を受けない人もいます。しかし、急性の発作は何度も繰り返す危険がありますし、そのたび心臓は少しずつダメージを蓄積していきます。
できるだけ早めに医師の診察を受け、今後の治療について相談するべきです。
「喉がピューピュー鳴る、胸がゼイゼイ鳴る」は即受診
それから急性心不全の発作として、気管支がピューピュー鳴ったり、胸全体がゼイゼイ鳴ったりすることがあります。これを「心臓喘息」と呼び、肺がうっ血したために気管支が圧迫されたことが原因で起こります。
そのまま放置すると急性肺水腫やショックを起こし、対処が遅れれば死亡することもあるため、すぐに医師の治療を受けなければなりません。
身近な家族にできることは?
もし家族がこのような発作を起こしたらどのように対応すればよいか、いざというときに慌てないよう、身の回りの人も「自分にできること」をしっかり把握しておくことが大切です。
まず、心停止をしている場合は、心臓マッサージをすることが大切です。心停止とは、心臓から血液が拍出されなくなった状態のことをいいます。この状態が10秒続けば脳に血液が運ばれなくなって意識がなくなりますし、5分以上続けば回復が難しく、命にも危険が及びます。
重篤な心不全の場合にも心停止が起こることがあります。急に意識がなくなりけいれんを起こして倒れたり、あるいは寝ている人がうなり声をあげたり、顔色が蒼白になったり紫色になったりして突然意識がなくなります。
そうなったら、一刻も早く心肺蘇生を行う必要があります。心臓マッサージや人工呼吸の方法は、日本赤十字社や医師会、消防署などが行う心肺蘇生の講習会で学ぶことができるほか、日本医師会のウェブサイトでも詳しく解説されています。こうしたことを平時から知識として養っておくと、とっさのときに役立つのです。
心肺蘇生を行うと同時にすぐに救急車を呼んで、ICU(集中治療室:重症疾患の治療を専門に扱う集中治療室)やCCU(冠疾患集中治療室:急性心筋梗塞や狭心症などの重症冠動脈疾患に対応する集中治療室)を備えた病院に入院させることが必要です。
もし家族に心不全のリスクが高い人や一度急性心不全の発作を起こしたことがある人がいる場合は病院へ救急搬送されたときのために、日頃から荷物をまとめておくとよいです。2日分程度の下着や保険証のコピーなどをカバンに入れ、すぐに取り出せるところに置いておけば安心だと思います。
また、病院では医師による問診で、「自覚症状があるか」「ある場合はいつ頃から見られたのか」「心臓の病歴があるか」「脂質異常症、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病と診断されたことはあるか、ある場合はいつか」「常用している薬はあるか」など尋ねられます。
こうした問診は病気の診断をつけるためにとても重要な役割を果たすため、気になる体調の変化などがあれば日頃からメモをして、「いつ頃、変化が起きたのか」「どんな頻度で、何分くらい続くか」なども記録しておくとよいでしょう。
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
大堀 克己