1時間以上のイヤホンはキケン!? コロナ禍に忍び寄る「イヤホン難聴」の実態

1時間以上のイヤホンはキケン!? コロナ禍に忍び寄る「イヤホン難聴」の実態

 

加齢とともに、我らのカラダに忍び寄るさまざまな不調。いつどんな病気に罹るかわからないからこそ、小さな変化に敏感でありたい。ということで、危険を知らせるカラダのサイン集をお届け。

 

コロナ禍でオンラインミーティングが増えた、という人は多いだろう。

 

この状況に「イヤホン難聴の患者が増えるのではないか」と危惧しているのが国際医療福祉大学教授の岩崎 聡先生だ。耳慣れない言葉だが、何やら怖ろしい響きの「イヤホン難聴」。一体どんなものなのか、さっそく岩崎先生を直撃した。

 

■ある日突然耳が聞こえなくなる……

 

──「イヤホン難聴」とはなんでしょう?

 

難聴には主に3つの種類があると思ってください。

 

1つめは年をとって耳が遠くなる「加齢性難聴」。2つめはストレスの多い人が罹りやすいと言われていますが、原因がはっきりとしない「突発性難聴」。そして3つめはイヤホンが原因の「イヤホン難聴」。

 

突発性難聴とイヤホン難聴は、ある日突然耳が聞こえなくなったり、聞こえづらくなる病気で、コロナ禍で増加するのではないかと考えています。

 

──ある日突然っていうのが怖いですね。

 

はい。さらに補足すると、加齢性難聴の場合は両耳が同じように聞こえなくなりますが、突発性難聴やイヤホン難聴は片耳だけに起こります。

 

──なぜですか?

 

「効き耳」があるからです。例えば電話に出るときに、よく受話器をあてる方が効き耳です。同じように聞いているつもりでも、効き耳の方に負荷が多くかかっているので、難聴になりやすいのです。

 

──そもそも、なぜイヤホンで難聴になるのでしょう。

 

まず、イヤホンに限らず、大きな音を長時間聞くこと自体が耳に悪い。

 

内耳には音を感知する「有毛細胞」というものがあります。字のごとく、音の振動によって「感覚毛」という毛が揺れて、音を拾うのですが、大きな音を長時間聴いていると、この感覚毛が抜けたり、有毛細胞が壊れて音を感じ取れなくなる危険があります。

 

──毛が抜けるって、嫌な響きですね……。

 

音の出力にはスピーカーやヘッドホン、イヤホンなどがありますが、この中で音波をモロに受けるのがイヤホンです。スピーカーなら音は四方に拡散します。ところがイヤホンになるとすべての音が耳の中に響き渡り、有毛細胞がすべての音波を受け止めるわけです。これが耳に良いわけがありません。

 

──抜けた感覚毛はまた生えてきますか?

 

一度壊れた有毛細胞は治療しても元に戻らないし、感覚毛が新しく生えることもありません。

 

 

半日続く耳鳴りは要注意!

■1週間の点滴治療が完治への近道

 

──抜けたら最後(泣)。ではどうやって治療するのでしょうか?

 

医師によっても違いますが、ステロイドの飲み薬や点滴が一般的です。ただいちばんいいのは1週間ぐらい入院して、毎日点滴を受けることです。芸能人や医者は突発性難聴になる人が多い職業ですが、彼らはどんなに忙しくても入院することが多い。入院して点滴するのが最も効率がいいからです。

 

──1週間も入院するんですか!? 思ったよりも重病ですね……。早く退院するためにも早期発見が大切なんですね!

 

いいえ。早期発見をしても入院期間は短縮しません。イヤホン難聴の自覚症状には段階があるのですが、早く治療すれば治る可能性が高くなるということです。

 

■半日続く耳鳴りは要注意!

 

──イヤホン難聴にはどんな段階があるのですか。

 

最初は耳鳴りです。1日数十分程度の耳鳴りなら問題ありませんが、イヤホンを使って耳鳴りがしたり、半日続くようなら危険信号です。

 

次のステップは耳閉感。山に登ったり、飛行機に乗ると耳の奥が詰まったようになることがありますよね。あれと同じような症状が現れます。これも短時間で治れば問題ありませんが、半日近く続くようなら病院に行きましょう。この段階できちんと治療をすれば、治る可能性はあります。

 

そして最後が難聴です。片耳の音が小さく感じたら、もう難聴です。いち早く病院に行ってください。進行すると治らなくなるので、様子を見ている余裕はありません。

 

──どうやったら、早期発見できますか?

 

以下のチェックリストを確認してください。

 

□ 同じ手を使い、左右それぞれの耳元で指を鳴らしたときに、左右差がある。

□ 耳鳴りが数時間続くことがある。

□ めまいを起こしたことがある。

□ 音がした方向がわからない。

 

ひとつでもチェックが入ったら危険。すぐに耳鼻科に行った方がいいでしょう。

 

イヤホンを60分使ったら10分休もう

──なるほど。ただオンラインミーティングを減らすことはできないし……。イヤホン難聴にならないための予防法などはありませんか?

 

環境が許すのであれば、スピーカーで聴く。それが無理ならヘッドフォン、どうしてもイヤホンが良ければ、ノイズキャンセリング機能があるものを選びましょう。

 

ノイズキャンセリングにすれば、周囲の雑音がシャットダウンできますから、小さな音量で済みますよね。音量は60%以下が望ましいですね。そして60分イヤホンを使ったら、イヤホンを外して耳を休ませましょう。雑音のある環境なら10分、静かな場所ならば数分休めれば大丈夫。ノイズキャンセリング機能を使って無音にするのもいいでしょう。

 

──ところでイヤホン難聴は何歳ぐらいから気を付けたらいいでしょうか?

 

一概には言えませんが、同じ音量で同じ時間イヤホンを使った場合、高齢者の方が早くダメージを受けますし、難聴の度合いも重くなります。ただ若ければ発症しないわけではありません。

 

また、今は子供でもイヤホンを使っていますよね。耳を酷使する生活を続けていれば、彼らが40歳になる頃には、今の70歳ぐらいの難聴になっているかもしれません。

 

──想像以上に怖い病気ですね。イヤホンを60分使ったら、10分休ませる。キモに銘じたいと思います。

 

早い段階で治療を受ければ、治らない病気ではありませんので、チェックリストを定期的に試してくださいね。

 

思わずドキッとするような事実が判明した岩崎先生へのインタビュー。ある日突然起こる病気とはいえ、普段の心がけ次第で発症リスクを大幅に減らすことが可能。

 

予兆を感じたら、すぐに病院へ行くことを心得ておこう。

 

岩崎 聡◎国際医療福祉大学三田病院耳鼻咽喉科教授。人工聴覚器の普及や、人工内耳の研究なども行う難聴のスペシャリスト。同病院では聴覚・人工内耳センター長として、難聴外来も行っている。