インフルとコロナ、「ツインデミック」(両方流行)の可能性も
ほぼ1年前にこのコラムでインフルエンザとコロナの関係について書きましたが、この1年間に我が国では秋冬を含めインフルエンザは殆ど流行を見ることがなかった一方で、コロナの方はワクチンの開発にも拘わらず、予想を超える展開を見せました。
そしてまたインフルエンザの季節を迎えようとしていますが、今回はどうなるのでしょうか?
昨シーズンのインフルエンザは世界でも記録的に低い蔓延率でしたが、WHOは2012-2022年向けのインフルエンザ・ワクチンの組合せを発表し、我が国も既に準備を進めています。
しかし、来るべきシーズンについてはいくつかの問題があります。
まず、そもそも我が国でインフルエンザは流行するのでしょうか?
最近、米国で発表された複数の論文では、このシーズンのインフルエンザは、前シーズンの流行が低調だったことやコロナワクチン接種が進み、マスクや手洗い、ソーシャルディスタンスなどの対策が緩和されたことなどから、前に本コラムで取り上げたRSウイルスの様に、今シーズンは大きく増加すると推計されるとのことです。
そして、コロナ感染症との同時流行であるツインデミック(Twindemic)となる可能性があるとのことです。
一方、現状では、北半球のみならず、既に秋冬シーズンを終えようとしているオーストラリアなどの南半球でも、まだインフルエンザの流行は見られていません。
こうしたことから、我が国ではまだ次のインフルエンザについて、このような予測の報告はありませんが、今後の流行は増える場合と増えない場合の両方の可能性を想定しておく必要がありそうです。
次に、昨年の様に極めて低い流行であれば、インフルエンザワクチン接種の必要があるのかという問題があります。
インフルエンザワクチンは、インフルエンザ感染そのものを十分予防するというものではなく、これによる入院や重症化をおよそ4割程度予防できるというものです。今回のmRNAコロナワクチンが9割以上の有効率を持つのとは大きな違いがありますが、呼吸器や循環器、糖尿病等の基礎疾患を持つ人や高齢者については重症化を避けるために接種が有効です。
コロナウイルスワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種は問題がないのかという疑問もありますが、米国CDCなどは問題ないとしており、同時接種や局所反応を抑えるためには別の腕などへの接種を薦めています。
結局、インフエルエンザワクチンは今シーズンは接種した方が良いのかどうかです。
インフルエンザとコロナ感染症は、発熱や鼻咽頭症状、咳や痰などの臨床症状は共通しており、抗原検査やPCR検査を行わない限り区別はつきません。
さらに、発熱などの風邪症状に対しては発熱外来を設けている医療機関でしか診療できない状況も考えられます。また、コロナ感染での入院が困難な状況が継続していて、インフルエンザの重症化による入院が困難になる可能性もあります。
今後のシーズンのインフルエンザ流行の程度にかかわらず、コロナウイルス感染による医療提供体制がひっ迫している状況では、限られた医療体制の負担を軽減し、必要な患者に対する入院治療を確保するためにも、インフルエンザの可能な限りでの予防が求められます。
そのためには、やはり流行に先立つ適切な時期にインフルエンザワクチンを接種しておくことが望ましいと思われます。
米国CDCなどはこうしたことからインフルエンザワクチンの接種を強く薦めていますが、我が国も同様に今後広く接種を薦める必要があると思われます。
しかし、インフルエンザワクチンの供給は例年並みの予定であり、例年の接種率は5割程度ですが、より多くの接種希望者が出ると不足する事態も考えられます。インフルエンザワクチンは卵などを使う製造法で、急に大幅な増産は困難です。また、医療現場がコロナワクチンの接種に忙しい状況で、インフルエンザワクチンの接種体制をうまく組めるかという問題もあります。
新たな難しい課題とも言えますが、医療現場や行政は様々な工夫や柔軟な体制など十分な準備の下に乗り切ってほしいと思います。
■中島 正治(医師、医学博士、元厚労省局長)
1951年生。76年東大医学部卒。外科診療、医用工学研究を経て、86年厚生省入省。医政局医事課長、大臣官房審議官(医政局、保険局)、健康局長で06年退官。同年、社会保険診療報酬支払基金理事、12年3月まで同特別医療顧問。診療、研究ばかりか行政の経験がある医師はめずらしい。